第8章 神のみぞ知る
その後のことは、あまり覚えていない。
瘴気の影響か、霊力不足がたたったのか、それとも、あまりにも多くの出来事を一度に突きつけられたせいか。
気付いたときには、私は意識を手放していた。
豊前江に背負われ、ゲートを潜ったような記憶だけが曖昧に残っているが、それも夢の中の出来事のようだったから事実なのかは分からない。
それでも、なんとか夜明けを迎える前に本丸を離れることはできたらしい。
………本当に、濃くて長い一日だった。
次に目を覚ましたとき、そこは政府の療養用入院棟だった。
全員は無事なのか。
本丸は、どうなるのか。
起きるなり矢継ぎ早に問いかける私を、担当の職員は一瞬、珍しいものを見るような目で見つめ、それから穏やかに答えてくれた。
刀剣男士たちはすでに政府の緊急手当を受け、回復していること。
本丸は瘴気祓いの専門部隊が入り、その後、再び運用される見込みであること。
「……私は、あの本丸に戻れますか」
自分でも驚くほど小さな声だった。
担当さんは微笑み、迷いなく頷いた。
「もちろんです」
その一言で、胸の奥に張りつめていたものが、ようやく緩んだ気がした。
全てが終わって、新しく動き出すんだ。
そう素直に思えた。
退屈な二週間の療養を終え、私はついに本丸へ戻ることになった。
待っていたのは、事態報告のための大量の書類と、慌ただしい日常だったが、不思議と逃げたいとは思わなかった。
折れた刀の分まで、生きる。
二度と、あんな悲しみを誰にも味わわせない。
いつのまにか私は少し変わっていたのかもしれない。
本丸には、様々な刀派の様々な刀が顕現し、2週間前に訪ねた時とは打って変わって、すごく騒がしい。
世界を閉ざしていた雪はいつの間にか止み、空は澄んだ青を取り戻していた。
こんな日々が、いつまでも続けばいい。
そう願いながら、私は今日も執務机に向かっている。