第7章 一途
雪は、音を殺し、血の色を隠した。
本丸の外れ、結界の縁。吹き荒ぶ雪の中で、二つの影だけが向かい合っていた。
三日月宗近は、刀を抜いたまま、どこか楽しげに笑っている。その笑みはいつもと変わらないはずなのに、どこかひび割れて見えた。
「…っ……お前、鶴丸ではないな?太刀筋が違いすぎる」
返事はなかった。鶴丸国永は、白い装束を雪に濡らしながら、ただ静かに刀を構えている。
いつもの冗談めいた様子は、そこにはない。目だけが、異様なほど冴え渡っていた。
「……驚かせてやりたかっただけさ」
ぽつりと落とされた言葉は、風に攫われる。
次の瞬間、雪を蹴る音がした。
鶴丸が踏み込む。
一直線の斬撃。
三日月は半歩下がり、受け流す。
金属がギリギリと削れる乾いた音が、雪空に響いた。
「正気か?」
「そんなもの、とうの昔に捨てたさ」
鶴丸の刃が、迷いなく三日月の喉元を狙う。
三日月はそれを紙一重で避け、反撃の刃を返す。
……だが、致命傷には至らない。互いに、決定的な一撃を避けている。
「まだ、戻れるかもしれん」
三日月が低く呟く。
「戻る場所なんてとっくに無くなったさ。きみだって気付いてない訳じゃないだろう?」
その言葉と同時に、鶴丸の刃が三日月の肩を掠めた。
狩衣が裂け、赤が滲む。雪に落ちた血は、すぐに白に飲み込まれていく。
三日月は一瞬だけ目を伏せ、それから、ゆっくりと笑った。
「……そうか。もはや、ここで終わらせるしかあるまい」
次の斬り合いは、今までよりも速く、重い。
白が舞い、視界が閉ざされる。
両者とも獣のような荒い息を隠せない。
見えなくてもお互いの存在は、張り詰めた神経で、痛いほど感じた。
「なあ、三日月。……きみは、あの日のことを、どこまで覚えている?」
刃が止まる。
ほんの一瞬。
その隙を、どちらも逃さなかった。
再び、剣戟。
その音は、どこか悲鳴に似ていた。今、2振りを止められる者はいなかった。