第4章 探偵ごっこ
ふっと体が浮く感覚があって、次の瞬間には重力に引き戻された。足元に敷かれたふさふさのラグマット。神域の中の、実体のない砂や水と比べると、当たり前だけど肌触りが確かに伝わってきて妙に安堵してしまう。
目の前には天下五剣。
そして、ここは執務室の扉の前。
本丸に戻ってきたのだ。
止むを得ずの神隠し(?)を終えて、元通りの昼下がりに戻ってきた。
遠い昨日のことのように思えるけど、挨拶も手入れも結界の補強も、現実ではついさっき終えたばかり。
執務室の時計を確認すると13時過ぎ。そういえばお昼食べてないからお腹空いたな…
目の前の三日月宗近は相変わらず胡散臭い程綺麗な笑みを浮かべているけど、約束と契約を結んだ以上、勝手なことはできないはず……とりあえず目の前の彼を信じるほかない。
「とりあえず明日の夜明けまで、前任の審神者の行方を探すことが目標…という認識で大丈夫ですか?」
「あぁ、その通りだ」
三日月さんはこくこくと頷く。
「執務室はもう綺麗に直されているから手がかりはなさそうですね」
「あまりに荒れていたんでな…審神者殿、いやもう主と呼ぶべきだな。主が来ることが決まって、政府の指示で全て片付けてしまったんだ……俺は反対したんだが」
呼び名が改まって少し嬉しい。頰が緩みそうなのを、表情筋に力込めてこらえる。
ともあれ、今の執務室に荒らされた様子がない事情は理解した。
三日月さんは知らないだろうが、現代の犯罪捜査において、事件が起きたとき、現場は3Dスキャンしてホログラムとして残すことは有名な話だ。政府に事件当時の部屋のホログラムのログが残っている筈だから、あとで問い合わせてみよう。
なんだか探偵役にでもなった気分だ。ちょっとワクワクしてしまう。
「俺の知らない情報を他の刀がもっている可能性もある。昼餉をとりながら、他の刀剣に改めて話を聞くのはどうだ?」
「色々あってお腹空いてたんです。ぜひ」
私が頷くと、彼は優しい笑みを浮かべ、再び広間に案内してくれた。瘴気による息苦しさはアドレナリンが掻き消したのか、もう意識の外だった。