第5章 安土城城内
「蘭丸!一体何をしていた!」
「蘭丸‥」
信長様が声を低くし、広間はしんと静まり返った。
「‥‥信長様、今更返ってきて、申し訳ありません‥。本能寺の夜、信長様のお側を離れた事をどうしても謝りたくて‥‥っ
「(この子もあの夜、本能寺にいたのね‥!)」
家臣の一人が、蘭丸さんをさけずむように笑った。
「敵襲を恐れて逃げ出したものが、よくもおめおめと‥!」
「やめろ!蘭丸はそんな奴じゃない!」
「いいんです。秀吉様‥!なんて言われようが仕方ないから‥」
大きな瞳を潤ませた蘭丸さんを信長様は厳しく見据える。
「蘭丸。あの夜、何があったか話せ」
蘭丸さんは全てを話した。
信長様が襲われた際、別の場所にいた蘭丸さん自身も襲われたこと。命からがら林へ逃げたこと。後から信長様が無事と知り、謝りたくて安土へ帰ってきたこと。
俯いて苦しげに言った蘭丸さんを信長様はただじっと見下ろしている。
「例え、多勢の敵に襲われても主君を逃げたことは事実!」
「その通りだ。蘭丸、切腹を持ってして償え!」
歩み寄った家臣が蘭丸さんに懐剣を突き出した。
「っ、待て!お前達!」
よくよく見ると蘭丸さんを連れてきた家臣二人は体術稽古に参加している人達だった。だからあえて、師範でいる時の口調で話し、蘭丸さんの前に飛び出す。
「謝罪するために帰ってきた人に、言い過ぎだ‥!」
「ですが、師範!こいつは信長様を置き去りにしたのですよ!」
「確かに、過去にしてきた間違いを取り消すことはできない。だからこそ、今この人は向き合って謝ろうとしている‥。死んだら何もならない‥!」
部外者が口出しするべきじゃないことはわかっている。でも、これは見過ごせない‥!
「信長様、私からもお願いします。蘭丸さんを許していただけませんか?」
「俺からもお願いします、信長様。-何卒」
暫く沈黙が続き、誰もが信長様の発言を待った。
「‥蘭丸、次はないと思え」
「?!ありがとうございます‥!」
色々あったが軍議はお開きとなり、私は項垂れる家臣二人のもとへ向かった。
「お前達のした行いは間違っていない。でも時には相手を赦すことも大切だ。それを忘れなければ次からはきちんと判断できるはずだ。お前達ならな」
「「は、はい、師範!ありがとうございます‥」」