第1章 記憶と感覚。
1階にかまえるポアロは、チェーン店にはないアットホームな雰囲気の喫茶店のようだ。
ドアを開けると、ドアベルがカランコロンと音をたてた。
「こんにちはー!」
「こんにちは、蘭ちゃん」
蘭の声に振り向いた女性は、トレーを片手にこちらへやってきた。
「いらっしゃい」
カウンターの中からやわらかい男性の声も聞こえる。
「いらっしゃいませ!」
「あれ、コナン君はまだ?」
「まだ来てないよ?約束?」
蘭と親しそうな女性は、梓と言うらしい。
溌剌としたイメージだ。
「少し早かったかな…。あ、こちらさんです。せっかく依頼してくれたのに、お父さんったら帰ってこなくて。さん、こちら梓さんです」
「はじめまして〜、さん!」
『はじめまして、梓さん』
喫茶店で自己紹介をするのは…普通のことなのだろうか。
なんとも不思議な空間に思えた。
案内された席は、カウンターに近い4人がけのテーブル席で、待ち合わせをするにはピッタリな場所だと思う。
「さん、コーヒーで良いですか?」
『うん、コーヒーをホットで!』
「梓さん、ホットをふたつください」
「コーヒーのホットふたつっと!はい、少々お待ち下さい〜」
梓の後ろ姿をなんとなく目で追っていると、カウンターの中にいる男性の視線に気がついた。
こちらを見たまま、呆然としている。
『?』
視線が絡んだのはほんの2〜3秒か、男性の表情は笑みに変わった。
形容しがたい、貼り付けたような笑顔だ。
こちらも作り笑顔で答えた。
「あの、さん、本当にごめんなさい」
『え…』
視線を蘭にうつす。
『大丈夫よ、気にしないで』
「依頼はしっかりと受けさせますので!」
真面目な良い子なんだろうなーと、そしてこの子の待ち合わせ相手も似たような子なのかなと想像する。
カランコロンとドアベルがなった。
「こんにちはー!」
喫茶店にはどこか不釣り合いな、小学生くらいの男の子だ。
「こんにちは、コナン君!」
「いらっしゃい、コナン君」
コナン君…コナン君…、さっき蘭が言っていた名前が、確かコナンだったはずだ。
「あ、蘭ねーちゃん!」
「コナン君、こっちこっちー!」
蘭の待ち人であるコナン君とは、小学生の男の子でした。