第4章 優柔と懐柔
身体がふわりと宙に浮いて、温かいものに包まれた。
降谷が帰ってきたのだと、は彼の首元に腕を回して頬を擦り寄せた。
ひんやりとしたベッドの上に寝かされて、『行かないで』と駄々をこねた。
仕事が忙しい彼だから、自分をベッドに寝かせたらまたどこかへ行ってしまうような気がした。
だから首元にまわした腕も、離さなかった。
唇にあたたかな感触が触れて、答えるように唇をうっすらとひらいた。
タバコなんて吸わない彼から、なぜかラッキーストライクの香りがして不思議だ。
少し硬い皮膚が、身体を撫でてくる。
くすぐったくて、気持ち良くて、身じろぎをした。
服を脱がされて少し肌寒かったから、彼の体温を求めて、もう一度首元に腕を回した。
ぴたりと肌が合わさると、心地良い。
また唇が触れて、今度は深く絡み合って、ゼロ距離にいることが嬉しい。
やっぱり彼のものとは違う、ラッキーストライクの香りだ。
ふわふわとした気分で、目を開けて彼の顔を見たいのに、瞼が重くて叶わない。
お酒をあんなに飲まなければ良かったな。
いつもとは違う触れ方なのに、どこを触れられても身体中が気持ち良くて、されるがままに彼に愛される。
幸せで涙が滲んできてしまった。
甘ったるい声が、勝手に漏れてしまう。
幸せだ。
窓から差し込んだ朝陽が眩しくて、起き上がろうとすると、頭痛と気怠さに襲われた。
二日酔いだ。
昨夜はあんなに心地よかったのに最悪の目覚めだ。
『…昨夜?』
ここは工藤邸で、降谷はいない。
それなら心地よかったのは昨夜ではなく、夢のはず。
ベッドに運ばれたような気はするし、縋りついたような気もする。
記憶と夢の境がふにゃふにゃとしていて、不透明で思い出せない。
痛む頭をおさえてリビングに向かった。
沖矢の姿はない、今日もいないのだろうか。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲んだ。
教えられていた薬箱から、頭痛薬を取り出して飲みこむ。
今日は何もする気が置きないし、また寝てしまおう。
ベッドに潜り込んだ。
それにしても、幸せな夢だった。
彼は元気だろうか。
夢でも良いから、もう一度会いたい。