第4章 優柔と懐柔
工藤邸に保護をされてから2週間が経過した。
沖矢といえば、毎日毎日沖矢の皮を被っていた。
レストルームでの遭遇から、中身と出会うことはなかった。
それにトレーニングもそこまでしているわけではないらしい。
毎日家にいるわけでもなく、東都大の大学生で、たまにふらっと居なくなることがある。
その間はコナンやジョディが訪れることもあれば、1人で過ごすこともある。
1人になるのは駄目だった。
テレビを見てみても、本を読んでも、映画を見ても、なにひとつ集中できなかった。
降谷のことばかり考えてしまう。
その日は朝から1人で、静まり返ったリビングのソファーで呆けていた。
降谷のことを思っては、時計の針を見るを繰り返している。
答えの出ない悩み事は、心への負担が大きくて、嫌な気配がじわじわと蝕んでくる感覚だった。
こんな時はお酒に逃げてしまうのも良いかもしれない。
リクエストしたビールが冷蔵庫にはたくさんある。
ビールと、ロックアイスにジンに、ペットボトルの緑茶も取り出した。
朝から何も食べていないけれど、すきっ腹にアルコールを流し込めばすぐに酔えるはず。
ソファーに戻って、早々に缶ビールを呷った。
1人酒は味気ないけれど、アルコールを体内にどぷどぷと流し込んだ。
時計の針は20時を過ぎて、テレビはバラエティー番組で賑やかしい。
テーブルには空缶が並んでいる。
ここまで呑まれてしまえば、くだらないバラエティー番組でさえも笑えた。
そして、次第に瞼は重くなっていった。
沖矢が工藤邸に戻ると、電気も点いていないリビングで、テレビからこぼれる灯りに照らされた、ソファーで横たわるを見つけた。
テーブルにはビールの空缶と、飲みかけのグラスが置いてあった。
まずは変装を解いてから、テーブルを片付ける。
そしてを横抱きに、ゲストルームへ向かう。
は沖矢の首に腕をまわして、首元へ頬を擦り寄せた。
『……零』
ぽつりと呟かれた名前は、降谷零のものだ。
沖矢はベッドにを寝かせた。
しかしが首元にしがみついて離れなかった。
「俺は、降谷君じゃないぞ」
『ん、零、行かないで…』
うわ言を言うの唇をそっと塞いだ。