第3章 予兆と微票。
足首を掴んだまま、沖矢は顎の先に指をあてている。
「…大胆ですね」
『違っ、うっ!!』
視線は一点に集中されていた。
自分から仕掛けたとは言え、これはあまりにも屈辱的だ。
『離してってば!!』
掴まれた足を反動に、逆の足で蹴り上げると掴んでいた手はすんなりと離された。
『っはぁはぁ、最低』
「身体能力は相変わらず高い、ただ以前よりも負けん気が強い」
『前の私なんて知らない!!』
沖矢と会話をしているとどうも苛立ってしまい、声も荒げてしまう。
「俺は気が強いのは嫌いじゃない」
『そんなの聞いてない!』
苛立ちながらも、見た目は沖矢で中身は恐らく手榴弾男だと感じる。
彼にも演じ分けなければならない理由があるのかもしれない。
けれど今の優先事項はそれではなく、確認しなくてはいけないことがある。
『そんな事は聞いてない!彼はっ!?彼は無事なの!?』
「あぁ、生きている」
生きている、彼は無事だったと聞いて、身体は脱力してしまった。
『……良かっ、た…』
思わずその場でへたり込んでしまった。
あんな彼を知ってしまって、彼に会いたいのか会いたくないのか、今はよくわからない。
それでも生きていることに安堵する。
そんなには興味もなさそうに、"紅茶で良いか"と聞いてくる。
『いや、飲まないし。スマホ返して。家に帰る』
返せと意思表示を込めて、沖矢へ手を伸ばした。
「帰すわけがないだろう」
しかし返ってきたのは、突拍子もない言葉だ。
返すわけがない?
『え、なんて??』
「家には帰さない」
『家?え?スマホは??』
混乱している様子に、意に介さず軽々と担ぎ上げられた。
『ちょ、おろして!!』
ぼすんっと雑にソファーにおろされた。
「そろそろボウヤが来る頃だ」
『は?』
インターホンが鳴り沖矢が出迎えに行くと、コナンを連れて戻ってきた。
『…コナン君?』
「…さん、勝手に連れてきてごめん」
『…それは、病院に運ばれてたら色々アウトだと思うから、ありがとう…』
不詳な身分は健在である。
「……巻き込んで悪かった」
その声はあどけない子供の声ではなく、トーンの低い声音だった。
巻き込まれたということは、コナンもあの一件の主要人物だということか。
『話してくれる?』
コナンはゆっくりと頷いた。