第1章 記憶と感覚。
『父って言っていたし、お父さんの方と面識があるのかも?』
しかし折り返しかかってきた着信でも、 とは関わりがないようだった。
あれ?
まだ諦めるのは早い!
明日のアポは取れた。
直接対面すれば、何かしらの情報が得られるかもしれない。
なにせ探偵事務所だし、と希望は捨てずに明日に備えよう。
少し落ち着いてみれば、寝汗と変な汗で、身体がじめじめと落ち着かない。
ひとまずシャワーを浴びることにする。
リフレッシュは大事だ。
パジャマを脱いで、ドラム式洗濯機の中に放り込んだ。
温かいシャワーにほっと一息。
『あれ…?』
シャンプーの香りが違う。
何を使っていたか記憶にはないけれど、香りが違うと感覚が伝えてくる。
次はボディーソープだ。
これも違う。
おそらく"私"の使っていたものではない。
ならば、誰が?
武器の類も、一体誰による仕業なのか?
温かいシャワーを浴びているのに、ぶるっと身震いがする。
ゆっくりとシャワーを浴びているのも、なんだか落ち着かなくて、早々に切り上げた。
雑にタオルドライをして、雑にドライヤーをかけた。
こんな日は、ビールでも飲んで早く寝てしまおう。
戸締まり確認をして、しっかりとアラームをかけて就寝した。
━━pipi…
アラームがなると同時に、ばっと起き上がる。
目覚めは良い方なのかもしれない。
辺りを見渡しても、特に変化はない。
昨日のような頭痛もないことに少しだけ安堵した。
毛利探偵事務所のアポは午後1時。
それまでに荷物の確認と、身支度をしても時間はたっぷりだ。
レストルームへ行き、まずは洗顔と歯磨きだ。
歯ブラシは買い置きの新しいものを使う。
それから、ローテーブルにひろげたままのピールの缶を片付けて、荷物の確認だ。
『お財布は、けっこうお金がはいってて、カード類もある』
続いて、キーケースだ。
『これは…家鍵かな…、こっちは何だろう?』
一般的なディンプルキーの家鍵らしきものと、用途の不明な鍵がふたつ。
ここにきて、手荷物にも謎が増えてしまった。
『次は…車の鍵かな…??』
鍵には、3連に重なるチェーンネックレスのようなものと、なぜか指輪がひとつぶら下がっていた。