第2章 錯綜と交錯。
いたって普通の、独身男性の部屋だ。
自身の家とは違い、怪しいものはないようだ。
それに、なんだか妙に落ち着くのは、ここに来たことがあるのかもしれない。
換気のために窓が開けられると、ベランダにプランターがいくつか置いてあるのが見えた。
『家庭菜園?』
「ああ、セロリとミニトマトとハーブ類をね」
『へぇ…マメね』
トマトを指でつついている。
「これは君が植えたやつだ」
『私、やっぱりここに来た事あるの…?』
「もちろん」
トマトを5個収穫すると、キッチンへ向い手招きをされた。
「口をあけて」
差し出された採れたてのミニトマトを口に含んだ。
フルーツのような甘さと酸味が口の中で弾ける。
『んっ!…………おいし!』
「そうだろう?」
ミニトマトをひとつとって、彼の唇におしあてた。
『あーん?』
開いた口にカポッとはまる。
「うん、…うまい」
『でしょ?』
の覚えていない、前にもあったこのやりとりを懐かしく思い、安室は少し困ったように笑っていた。
『私、お風呂の準備するよ』
「あぁ、場所は…
鼻歌まじりにキッチンをあとにする、迷いなくバスルームに向かっていた。
その姿はもう安室の知るでしかない。
「はぁ……、これは予想以上にくるものがある」
これが自分との関係に線を引いている行動なのかと思うと…、額をおさえて、ため息がこぼれる。
お風呂掃除をおえてリビングに戻る。
なんとなく自然にとった自身の行動に驚いた。
『ねぇ…バスルームも掃除道具の場所もわかったんだけど…』
「ここへはよく来てたからな」
『そう…』
立ち尽くすを、先に風呂へと促す。
自分のスウェットとバスタオルを2枚出して洗濯機の上に置く。
不透明な扉の向うでシャワーを浴びる姿に、意識をしないよう足早にキッチンへ戻る。
「間違えても…ヘマはできないな」
自嘲気味に笑い、彼女の好きだったおつまみを作りはじめた。
お風呂からあがると着替えが置いてあった。
バスタオルは2枚、ふかふかだ。
『かゆいところに手が届く感じ…』
おそらく"私"の習慣を知ってのことだろう。
普段なら1枚を身体に巻き、もう1枚を頭に巻くのが湯上がりスタイルだ。
居心地が良いのか悪いのか、何とも言い難い気分だった。