第2章 錯綜と交錯。
避けるように裏口へ向う。
まるで自身の行動など見透かされているように、安室がそこにいた。
「さん」
なんだか無性に苛立った。
『何の用?』
「話を『…っ聞きたくない!』
足早に近づかれ、背中に腕が回された。
抱きしめられた分だけ、距離は縮まった。
「梓さんとは何も無い…」
『私には関係ない…』
「、俺は…」
安室を演じると決めた彼が、安室と降谷の間で揺れているこに本人さえ気づいていなかった。
同じようにもまた、"私"と私の間で揺れている。
『もう…構わないで…、どうして…』
「?」
『どうして私には記憶がないの…あなたを覚えていないの…』
安室の背中に腕を回して、シャツをきつく握りしめた。
「すまない…」と小さい声で呟く安室が、何に対して謝っているかは分からなかった。
不安を一度口にしてしまえば押し潰されてしまいそうで。
「すまない」と謝る彼に甘えてしまえたら楽なのに…。
『ごめんなさい…、安室さん離れて』
自身の手は彼の背中から離れているのに、彼の腕にはまだ抱きしめられたまま。
彼のシャツから懐かしい柔軟剤と、彼の香がして、ひどく気分が落ち着いていく。
「すまない…」
『…そればっかり』
は小さく息を吐いた。
「少し…出掛けないか」
は少し考える。
『…夜の海が見たい』
彼の身体が少し離れて視線が絡んだ。
安堵する表情が浮かんでいる。
エントランス前の通りに停めてある彼のFDに乗り込むと、滑らかに動き出す
彼の運転はとても心地良かった。
レインボーブリッジを渡り、空港の駐車場をいくつか過ぎると、海浜公園の広い駐車場に着いた。
対岸の無数のビルと、工場地帯の灯りが、真暗な夜の海を照らしながら揺れている。
耳に入るのは辺りの静寂と、かすかな波の音。
落ち着く反面、少し怖いと思うのは吸い込まれてしまいそうな程に真暗に見える海のせいか。
少しの恐怖か、少し肌寒いからか、身震いがする自分の腕を抱く。
その様子に、後ろからすっぽりと包むように抱きしめられた。