第4章 優柔と懐柔
微かな物音と、人の気配に目覚めた。
瞬時に覚醒する寝覚めの良さだけは、自身を褒め称えたい。
時間は深夜2時、まともな来客ではない。
ベッドからそっと抜け出して拳銃を手に取ったけれど、この場所を殺人事件の現場にするわけにはと葛藤しつつ、背に腹は代えられない。
もしもの時は貯金をはたいて買い取らせてもらうことにしう…。
曇り空が月灯りを隠しているのは幸いした。
暗がりが多少なりとも、目眩ましにはなるかもしれない。
ドアの横に身を潜めて、拳銃をかまえた。
微細な足音がリビングあたりを移動している。
物取りか、あるいは考えにくいけれど組織か、公安がこんな行動はとるとは思えないしと候補から早々に除外した。
侵入者が物取りならば、武器がなくとも倒せるだろう。
しかし…緊張しても良さそうな場面なのに、落ち着き払っているのが不思議だった。
この先、徐々に記憶を取り戻していくとして、時間の経過と共に色々な感情が麻痺をして行くのだろうか。
最後は笑わない人形とかね、と想像してみる。
足音はこちらに進むでもなくとまった。
『?』
やはり物取りだろうか。
リビングには貴重品と、武器が置いてある。
先手をとるか迷っていると、サイドテーブルに置いたままのスマホが震えた。
静寂に包まれる中、小刻みな振動がテーブルを叩き続けている。
怠惰は駄目だ、感覚を鈍らせる。
細心の注意が必要不可欠な立場なのに、いつの間にこんなに体たらくになってしまったのか。
いかなる不測の事態も潰して置かなければいけないのにと、震え続けるスマホを睨んだ。
昨夜はソファーで寝落ちしていた件もそうだ。
ここにはボディーガードはいないし、工藤邸のようなセキュリティもない。
自身の身を守れるのは、自身だけだ。
鳴り続ける振動に、足音はそろりとこちらに向かってくる。
ドアノブがゆっくりと回された。
浮かんだシルエットに向かい、銃口を向けた。