第1章 記憶と感覚。
「駐車場に案内しますね」
言葉自体は丁寧だけれど、どこかにトゲを感じてしまう。
『お願いします』
「すぐに左折です」
言われた通りに左折をする。
「そこです」
ビルの真横が駐車場だった。
これなら口頭の説明だけで十分だったのでは。
ひとつだけ空いている駐車スペースの隣に、同じ白のFDが停められている。
案内されたことに『ありがとう…と言いかけたところで、空気が重くなるのを感じた。
隣に座る、安室を見た。
怒っているような、悲しいような、怪訝な、なんとも深雑な表情だ。
「なぜ…」
『え…?』
なぜ、とは何のことを指しているのか。
まさか路上駐車をしたことを怒っているのだろうか。
『ごめんなさい、駐車場の場所を先に確認するべきでした』
その言葉に、今度は呆然の表情まで付け加えられている。
そんな表情を向けられるようなことを言ってしまったのだろうか、しかしこの態度は腑に落ちない。
『あの…!』
「なぜ、ここを訪れたんだ」
こことは、喫茶店のことか、はたまた毛利探偵事務所のことか。
それにしても、この安室という男の態度は不可解だ。
なんだかふつふつと苛立ってきた。
『あなたに関係ある?』
「は?」
『初対面よね、私達?』
初対面、だと思う。
私には初対面でしかない。
それならば、"私"とは?
『安室さん…だったかしら。あなた私のことを知っているの?』
ここにきて、またがらりと表情は一変した。
焦燥や喪失が一気に押し寄せる、思い詰めたものだ。
「君は…」
静かで重い空気を塗り替えるように、運転席側の窓がコンコンと小さな音を立てた。
窓にはひょっこりと顔を覗かせるコナンがいる。
『コナン君?』
窓を開ける。
「蘭ねーちゃんが心配してるよ!安室さんも早く戻らないと、梓さんが困っちゃうよ!」
あどけないコナンから、観察をするような視線が見え隠れしている。
この少年は何者なのだろう。
それにこの安室という男もだ。
"私"のことを知っている。
「戻りましょうか。つい車の話で盛り上がってしまいました」
さっきまでの空気は嘘のように、何事もなかったと、安室は笑顔を貼り付けている。
『そうね、楽しかったわ、とても』
私も、倣うように笑顔を貼り付けた。
その様子を、一部始終を、コナンが注視していたことには気付かなかった。