第4章 優柔と懐柔
目覚めるとソファーの上だった。
一瞬ここがどこなのか焦ったけれど、目の前のテーブルの呑み散らかしたものを見て我に返る。
お風呂も入らずにお酒を飲んで寝てしまったようで、ひとまず片付けることにする。
それからゆっくりとお風呂に入った。
別荘のお風呂は岩風呂で、これでは温泉旅行に来たみたいじゃないか。
『旅行か…』
「落ち着いたら旅行に行けるようになるよ」とコナンに言われたことを思い出す。
『棚からボタモチかなぁ』
なかなか訪れない機会かもしれないと、温泉気分を満喫した。
レストルームには、さながらホテルのようなアメニティーが並んでいた。
至れり尽くせりだ。
温泉気分のあとは地ビールを飲んで、リビングの本棚にある本を手に取った。
著者は家主でもある、工藤優作だ。
『推理ものかぁ…』
おそらく読んだことはないと思う。
読み始めてみると時間を忘れて没頭してしまい、
ピーンポーンと鳴ったインターホンの音に驚いた。
モニターには佐渡の姿がある。
「こんにちは」
『こんにちは、昨日はありがとうございました。色々と用意していただいて』
「気になさらないで、工藤さんのお連れ様ですものおもてなしはさせていただきますよ」
と、和やかな笑顔で紙袋を手渡された。
「良かったら食べてね」
『ありがとうございます、いただきます』
中身はお惣菜だった。
「また明日来るわね」と告げて去って行く。
工藤夫妻のお連れ様…、夫妻と会話をしたのは1度だけだ、ほんの少し。
なんだか居たたまれなさ過ぎて、長居はできないなと思う。
お昼はお惣菜とビールですませる。
怠惰だなと思いつつ、あと少しだけと自身に言い訳をした。
視界にスマホがはいり、チカチカと点滅しているのに気づいて確認してみると、未登録の着信が3件。
昨日と同じ番号だ。
「昨日の、風見って人かな」
なんとなくそう思った。
からは要件はない。
また本の虫に戻って、辺りが薄暗くなるまで読みふけった。
時計を見れば日付変更手前だった。
今日はしっかりとベッドで寝ようと、テーブルの上を片付けて寝る準備をする。
サイドテーブルにはスマホと、念の為に拳銃を置いた。
ふかふかベッドの最高の寝心地に、秒速で夢に落ちていった。