第4章 優柔と懐柔
工藤夫妻の別荘には、1時間ほどで到着した。
電気は灯されているし、玄関の鍵は開いている。
中に入ると50代くらいの上品そうな女性に出迎えられた。
「あらあら、こんばんは。こちらの管理をさせていただいております、佐渡です」
『こ、こんばんは、です』
「お風呂の準備は済んでいますから、それと寝室はあちらをご利用になって。冷蔵庫の中も自由になさってね。ごゆっくりどうぞ。何かあればこちらにご連絡くださいね」
名前と電話番号が書かれたメモを渡された。
『あ…ありがとうございます。急にごめんなさい』
「大丈夫ですよ」と残して女性は去って行く。
結局は方々に手間をかけさせてしまって、これではとんだ我儘女だ…。
何だか情けなくて、肩を落としながら車から荷物をおろした。
スマホを確認しようとバッグから取り出すと、電源は落ちていた。
朝まで充電をして、今日は充電を減らすようなことはしていない…ような。
充電器をさしこんで電源をいれる。
着信はたったの4件。
赤井
コナン
未登録
コナン
以上だ。
とりあえず、到着した旨と、手配のお礼を赤井に伝えて、コナンにもお礼を伝えた。
未登録は、おそらく公安かと推測する。
今日は今日とて…怒涛の1日だったような気がする。
しばらくは工藤夫妻の別荘にお世話になって、それから身の振り方を考えよう。
『はぁ…、ビール買ってくれば良かった…』
ホテルで買えば良いかと、判断したのは駄目だった。
キッチンの大きな冷蔵庫、自由にと言われていたし、よもやまさか。
『ビール!!!』
地ビールだろうか、見たことのないパッケージが3ケースも鎮座している。
あの女性、佐渡と言ったか、心からの感謝を送った。
軽くつまめそうなチーズやサラミ、この地域の特産物らしきものも用意されていた。
『ありがたく…』
両手をあわせて、いただきますと呟いた。