第4章 優柔と懐柔
あれから3時間ほど走り続けて、予定通り海沿いを走っている。
日はすっかり沈んでいて、海辺の景色は堪能できなかった。
途中でコンビニに寄って、軽食と飲み物を買い込んだ。
眠くなれば適当にラブホテルにでも宿泊すれば良い。
海岸沿いの駐車スペースに車を停めて、少し休憩を挟んだ。
車通りも少なくて、夜の海を眺めるには良さそうな場所だ。
ペットボトルとサンドイッチを手に車を降りた。
コンクリートの階段に腰を下ろす。
サンドイッチを食べおわって、しばらくぼうっと海を眺めていたけれど、FDの隣に車が停車するライトが見えた。
こんな時間にこんな場所、夜のドライブデートをしに来たのかと、はスペースに戻った。
停められているのは、街頭に照らされた赤いマスタング、降りてくるシルエットは、彼だ。
『…なんで?』
「じゃじゃ馬娘のお守りにな」
『…どうしてここに』
赤井だった。
「ジョディの方が1枚上手だったようだ」
『どういうこと?』
「GPSを仕掛けられている」
侮っていた…完全に。
ばいばいFBIからの、こんばんはFBIだ。
『してやられたってこと…』
「優秀だからな、ジョディは」
『そうみたいね…、それで連れ戻すの?』
赤井は首をすくめて見せる。
そしてポケットから鍵をひとつ取り出すと、放物線を描かせた。
街頭に照らされてキラキラとしている。
『ちょ…、っと』
慌てて受け取った。
「工藤夫妻の別荘の鍵だ。手入れは定期的にされている」
『もう、落としたらどうするの!』
「落とさないだろう」
結果落とさないで済んだけれども…。
「これは住所だ」
と、普通に手渡されて、鍵も普通に手渡せば良いのにとは思う。
逃走は失敗した。
降参だ…、GPSなんてどこに仕掛けられたのかなんて探し出せる自身はない。
『ありがと…』
素直に受け取ることにする。
『赤井さんは?』
意外そうな表情を向けられた。
「俺は戻る…」
『そう』
「付き合っても良いが…、くっ」
この男はくつくつと笑いながら、こんな冗談を言うキャラだったろうか。
『ひ、1人で大丈夫!!』
「連絡はとれるようにしておくことだ」
『わかった、ありがとう』
赤井は肩をすくめて去って行った。
結局、姿を眩ませることに失敗した。
も車に乗り込んだ。