第1章 記憶と感覚。
『……蘭ちゃんの弟くん?』
「弟ではないんです」
弟ではない、それなら恋に年の差は…とも言う。
『え、もしかして彼氏…?』
「やだーもう!さんてば!コナン君はうちで預かってる子なんです」
蘭はおかしそうに笑っている。
確かに…普通に考えれば彼氏ではない。
「あ、安室さん!車が駐禁をきられそうだよ!駐車場にいれてないの珍しいね」
駐禁…、そういえば車は路上に停車したままだ。
『あ!!!』
急いで車のもとに走る。
FDの前にはミニパトが停まっていた。
『ごめんなさーーい!すぐにどかします!』
蘭とコナンが追いかけてやってきた。
「駄目ですよ、路上駐車は!」
『ごめんなさい』
ぺこぺこと頭をさげる。
うかつだったとは言え、今はまだ不詳の身分だ。
おまわりさんのお世話は避けたいと焦ってしまう。
「由美さん、さんはお父さんの」
「おねーさんは、小五郎のおじちゃんの依頼人なんだ」
「毛利さんの…。うーん。仕方ない、今回だけね!」
蘭とコナンの鶴の一声で、というより毛利小五郎という探偵のおかげで事なきを得た。
警察関係に顔が利く人物、もしかしたら頼るべきところを間違えてしまったのだろうか。
重厚なガラスケースにしまわれた武器を思い返す。
由美と呼ばれた警察官は、ミニパトに乗り込み走り去った。
『はぁ…、良かった。ありがとう2人とも』
「これ、おねーさんの車なの?」
『そうよ、かわいいでしょ?』
心のなかで、(たぶん)と付け加えておいた。
「安室さんと同じ車だね!」
「そうですね、同じ車ですね」
気配など微塵も感じなかった。
安室という男に、いとも簡単に背後をとられていた。
いとも簡単に、とは?
必要以上に過敏に反応してしまった自身にも驚いていた。
ゆっくりと後ろを振り返る。
「どうさかれましたか?」
『いえ、少し驚いただけで…』
安室はカウンターで視線が絡んだときと同様に、貼り付けたような笑顔を向けてくる。
どうにも、いけ好かない。
なぜこんなに引っかかるのか、違和感を覚えてしまうのかがわからない。
「駐車場、案内しますよ」
そうだった、車を移動させなくては。
申し出には素直に従うことにする。
車に乗り込みエンジンをかけると、コンコンと窓をノックされた。
安室を招き入れた。