第43章 謝意
『あ、安室さん…!やめてください…!』
目を逸らしたまま距離を取ろうとしていると
安室さんのもう片方の手が私の頬を撫でていた。
「美緒さん…僕を見て。」
『〜〜〜っ!!』
…なんて甘い声を出すんだろう。
こんな安室さんの声…聞いた事ない…
『も、う…本当にだめですって…!』
「すみません…でも……
僕はもう自分の気持ちを…止められない…」
『っ、!!』
安室さんのその気持ちは嬉しいけど
私には赤井さんという大切な人がいるから聞きたくなくて…
困っていると頬に添えられた手は私の顎下へと移動し
無理矢理視線を合わせられた。
「美緒さん…僕は…あなたのことが…」
『っ…』
カランカラン
…気持ちを伝えられる寸前でお店のドアベルの音が聞こえて
安室さんの手は私からパッと離れた。
「すみません安室さん、私忘れ物しちゃったみたいで…
あれ…?若山先生…?」
お店に入ってきたのは榎本さんで
ここに私がいると思っていなかったのか、とても驚いた表情をしていた。
『あっ…ど、どうも!お久しぶりです!』
「本当にお久しぶりですね!
安室さんと2人で何してたんですか?」
「……実は先日美緒さんとお会いした時に
少し色々ありまして…今日はそのお礼に来て下さって
彼女の手料理をご馳走になってたんです。」
『そ、そうなんです!安室さんにはお世話になったので…!』
安室さんの説明に同意していると
榎本さんは私が作った料理を眺めていた。
「うわぁ!美味しそうな肉じゃが!
もう、安室さん!若山先生が来るなら言って下さいよ!
そしたら予定入れずに私もご馳走になったのに〜。」
……ん?
いやいや、ちょっと待って。
榎本さんは急用が出来たから帰ったって…
安室さん、そう言ってなかった…?
榎本さんは控え室に忘れたであろうスマホを手に取り
すぐにお店を出て行こうとしていた。