第18章 収束
「で、隊長。この遺体はどうするんだ?木ノ葉へ持ち帰るか?」
広間には七つの遺体がある。
敵の術や、こちらが放った水遁の水が流れ、石造りの床は水浸しだった。そのためか、多くの血が流れたにも関わらず、血の臭気は抑えられていた。
僕はしまい込んだクナイの血と、腕に着いた返り血を持っていた手ぬぐいで拭った。
「いや、この里の人物がいきなり消えるというのは、混乱の元だ。木ノ葉にこれ以上敵意を向けられることは避けたい」
「じゃあ、どうすんだ?」
丑面が腰に両手を当てた。
僕の回答を待っている。
「そうだな。別の場所に運び、葬るのがいいだろう。近くに沼があったはずだ。そこに沈める」
「分かった。里の者が探そうとしたら、何とか出来るようにってことか」
「ああ」
僕は、敵の脈を確認していた鳥面を呼び寄せた。
「この遺体を、一旦巻物に取り込んでくれるかい?」
「はい。分かりました」
鳥面はこの部隊で唯一の女性だ。
小柄な女性で、医療忍術と封印術の遣い手だった。
横たわる遺体を皆で一か所に運ぶと、彼女が巻物を取り出し遺体を取り込んだ。その後、広間の隅々を確認し、策謀の一端となる情報がないか探る。しかし、塔の一室にはもう何もなかった。
最後に丑面が水遁で水流を生み出して、床の血痕を洗い流した。床が濡れている以外、ここで何が起きたかはもう分からないだろう。そうして、僕らはその場を後にした。
*
塔の外ではまだ雨が降り続いていた。
厚い雲が空全体を覆い、足元はぬかるんでいる。
真っ暗な夜道を河童面の先導で進むと、塔から一刻ほど北へ進んだ先に深い沼が見つかった。
そこに目星をつけ、先ほど運び出した七つの遺体を沈める。暗闇に水音が響き、一つ二つと、その体は底の見えない沼にゆらゆらと落ちていく。
僕は彼らが沈みきるまで、水面の一点を見つめていた。
雨が降り注ぎ、沼には波紋が次々と出来ている。ふと自分の胸元に目をやると、雨に濡れたせいか、体についた返り血はいつの間にか流れ落ちていた。
沼の淵に立ち、僕はその場にいる一人一人の顔を見た。暗闇の中に、獣の仮面だけが仄かに浮かび上がっている。
「…いいかい。これから急ぎ木ノ葉へ向かう」
そう言うと、残る四人が無言で頷いた。