第17章 暗雲
猿面の危惧は当たったらしい。
僕はクナイを一旦仕舞い、相手の胸倉を掴んだ。
「火の国で何が起こるんだ!」
「俺の知ったこっちゃねえよ。俺たちは依頼人の希望通りに物事を進めるだけ。報酬さえもらえれば、後のことは後のことさ」
へらへらと笑いを浮かべる彼を僕は睨んだ。
少なくとも情報を握っているのは、今はこの男一人しかいない。自害でもされようものなら、今後起こることが判明するまで余分な時間がかかってしまう。
そう判断し、術を施した。
「木遁・黙殺縛りの術」
左手から角材を生み出して、首元までがんじがらめにする。するすると生まれた木材を目にして、男は驚きを通り越して、何故か歓喜の声を上げた。
「おお、すげぇ!」
「何だ。呆けたか」
脇に控えていた猿面が、冷ややかな声でそう言った。それを無視して男は続けた。
「お前、木遁のテンゾウか?」
「……」
「忍の神の技を受け継いだ奴が、木ノ葉にいるらしいと噂で聞いたぜ。…はは、冥土の土産に丁度いい。ツいてるなあ、俺は!」
男は耳障りな声を上げ、高らかに笑った。
「おい、頭のネジが外れたようだぞ。どうする?」
丑面が呆れた声を上げる。
「そうは言っても、大事な捕虜だ。このまま拘束して、木ノ葉に送り届けよう。情報部ですぐに尋問を」
僕が振り返り指示を出すと、黒い狐の面を付けた男が歩み寄ってきた。
「了解、隊長。ならば…口寄せ・疾風(はやて)!」
彼が指に傷をつけ、地面にその血を擦り付けると、白い煙と共に黒く長い毛をした巨大な狼が現れた。その目はギラギラと赤く光っている。
「疾風、俺とこいつを木ノ葉まで頼む。どれぐらいかかる?」
狐面が聞くと、疾風はにやりと笑った。
「一時もあれば」
一瞬でも早く情報を届けなければならない。その速さはありがたかった。
僕は、まだ壊れたように笑っている男の口を、木遁で更に上から覆いギリギリと押さえた。こうしておけば、舌をかみ切るということも難しいだろう。
狐面は疾風に飛び乗った。
首謀者を小脇に抱えて、僕に尋ねてくる。
「隊長たちは?」
「僕らは、ここの後始末をしてから向かう。早急に三代目に報告を頼む」
「わかりました。行くぞ、疾風!」
彼が言うが早いか、疾風は風のように走り出し、塔の最上部の窓から一気に飛び降りた。