第15章 くすぶる思い
「そろそろ今日の分は終わりですよ」
受け取った最後の報告書を仕分けして、ふと横を見ると、火影様の傍に仮面を付けた人物が立っていた。
彼は火影様に近づき、何か耳打ちしていた。
まるで気配を感じなかったことに驚き、その姿を凝視する。それに気付いて、火影様は椅子から立ち上がった。同時に仮面の男性が、一礼した後、煙に紛れて姿を消した。
「イルカ、それからナズナ先生。今日はご苦労じゃった。すまんが、儂は野暮用でしばらく席を外さねばならなくなってな。後をお願い出来るかの」
「かしこまりました。報告書はいつもの保管場所に移しておきます」
イルカ先生がすぐに立ち上がり、そう答える。私も慌てて立ち上がった。
「うむ、二人とも頼んだぞ」
「はい」
私たちは、静かに立ち去る火影様の背を見送った。
*
「よし、じゃあ、運びましょうか」
仕分けしてまとめた報告書の束を、イルカ先生と一つずつ持ち、別室へと運ぶ。
「ふう、終わりましたね。ナズナ先生、長時間ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
部屋を出ると、イルカ先生が思い出したように話し出した。
「あ、そう言えば…昨日、知り合いの方とは会えましたか?」
都合よく忘れていてくれたら、と思っていたことを聞かれる。しかし、彼の人の好さそうな表情を見ると、答えないわけにもいかない。
「それが…やっぱり見間違いだったみたいで」
私は、苦笑いをしながらそう答えた。
「そうだったんですか。勧めたのは俺なのに、何だか無駄足を踏ませてしまいましたか…面目ない」
心底申し訳なさそうに、イルカ先生が頭を下げた。
「そんなこと…。買い物のついでを思い出したから、却って良かったです」
「それならよかった」