第13章 視線の先
話の接ぎ穂を探して、こちらからも聞いてみる。
「あの、貴方は…」
「ああ。僕ですか?そうだな、肩書きと言えばこの里の忍者としか」
「そうですか…やっぱり」
静かな佇まいに納得して、私はそう呟いた。
「やっぱりって?」
「この間も近付かれたとき、気配を感じなかったんですよね。そんなこと出来るのって、忍の心得のある人だけですよ」
私が笑いながら言うと、彼も目を細めて笑った。片手を後頭部に添えて、照れ臭そうに首を傾げる。
「そうか。それは参ったな…気付かれないことが大事なんだけど」
「たまたまですよ」
このまま彼と話していたいと思ったけれど、店の外はすっかりと暗くなっていた。食材を手に、買い物を済ませようと女将さんに目をやる。
「すみません。私、買い物の途中で」
「ああ。つい話し込んでしまったな。じゃあ、僕はこれで」
すっと立ち去ろうとする彼に、私は再び声を掛けた。
「あ、あのう。私はアカデミーの教師をしてますナズナと言います。貴方は……」
思い切って言ってみたのに、その言葉は宙に浮いた。
彼は振り返り、確かに私の目を見た。
けれど、その問いには答えずに音もなく去ってしまったのだ。
店の外に視線を向けたまま、私は呆然としていた。
突然の自己紹介にギョッとされたのだとも思ったが、それだけではなかった。
名前を聞いたとき、それまで明るい光を宿していた彼の瞳が一瞬陰った。それで、彼との間に一枚壁が出来たように感じた。
私はあの目を見たことがある。
人を遠ざける悲しい目。
彼は、今日会ったカカシさんと同じ目をしていた。