第13章 視線の先
「あの、さっきお店にいた方も常連さんですか?前にお見かけしたんですけど……」
用紙が入った紙袋を持って、私は思い切って聞いた。
「え?さっきって言うと……」
「ほんの少し前です。ほら、あのノートが並べてある商品棚の辺りに」
私は、カウンターから見える商品棚を指差す。
「ああ!そう言えば、よくノートや鉛筆とか買ってくれる人かな」
「白いシャツを着てた」
「うんうん。そうだね、今日も何冊か買ってくれたよ」
やっぱり。あの人だ。
そこまで確認すると、彼は不思議そうな顔をした。
「あれ?もしかして、先生の知り合いかい?」
「うーん。知り合い、と言うほどでもなくって…ここで一度話したことがあるんです」
「そうかい。当たりの柔らかい好青年って感じの人だろ?短い髪のさ」
「そうです!あの、どんな方なんですか?」
少しは情報を得られそうだと、前のめりに聞いたら、彼は笑った。
「やいやい、先生どうしたんだい?やけに食いつくね」
そうからかわれて、顔が熱くなった。
「いえ、ちょっと気になって……」
「何だ。もしかして一目惚れかい?」
「いやだ。そんなこと……」
「いいじゃないか。青春だねぇ」
彼は歯を見せて、明るく笑った。
「もうそんな歳じゃあ…」
二十歳も当に過ぎ、流石に青春という言葉は少し気恥ずかしくて私は俯いた。
「何言ってんだい。まだまだ十分若いじゃないの」
彼は白髪頭を片手で撫でながら、陽気にそう言う。しかし、その後表情を変えて、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「と言っても…俺もよくはわかんないだよねぇ。よさそうな人だから、話そうとするんだけど、ふっと顔を上げるともう姿がないんだよ。ひょっとして、腕のいい忍だったりしてな」
「なるほど……」
自分が声を掛けられたときも、全く気配がなかったことを思い出す。彼の言うことも頷ける。
「あんまり参考にならなくてごめんよ」
「いえ、よく来る方だってわかっただけでも」
「そうだなぁ。ひと月に一回は来てると思うよ、あの人。間が開くときも在るけどね」
「そうですか。じゃあ、また顔を合わせるときもあるかもしれませんね」
私はそこまで話して、店を後にした。