第13章 視線の先
表通りを歩き右に曲がろうとした時だった。いつも行く文具店の近くだと気づいた。
ちらと店に目を遣ると、見覚えのある人の姿がある。
常連客だと言っていたその人。
「あ!」
急に立ち止まった私に驚いて、隣を歩くイルカ先生が振り返った。
「どうかしましたか?ナズナ先生」
「いえ、知り合いを見かけて」
取り繕うような笑顔を作り、答えながらはたと考える。
知り合い?いや、ただの通りすがりの人だ。
「そこの文具店ですか?」
イルカ先生は立ち止まり、店の方に目を向けた。
「でも、違うかも。いいんです、行きましょう」
私はせかせかと歩き出そうとした。
だが、イルカ先生はそこに立ち止まったままだった。振り返ると彼が小首を傾げている。
「あの…いいんですか?ナズナ先生」
「え?どうして?」
不思議に思いそう問い返したところ、彼は眉尻を下げて笑った。
「さっきの顔、鬼気迫るものがありましたよ。とてもただの知り合いって感じじゃあ…。例え見間違いだったとしても、俺は確かめた方がいいと思います」
彼の指摘を受けて、言葉に詰まる。
待たせる訳にもいかず先を促したものの、後ろ髪を引かれる思いもあった。
もしかしたら、あの人かもしれないと。
しばらく黙りこんでいると、イルカ先生は両手を腰に当ててニッと笑った。その顔は生徒に向けられるような、安心感のある表情だった。
「ほらほら、行ってください。俺のことは気にしなくていいですから。旨いものも食べられたし、ナルトも見送った。のんびりと帰りますよ」
「それじゃあ、また明日」とイルカ先生は笑顔を残して、先を歩いて行った。その背を追いかけようと思ったのに、何故か足は前へと出なかった。