第12章 その人は
夕焼けが表通りを照らしていた。その茜色に染まった空を一度仰いでから、イルカ先生の方を見る。
「イルカ先生。先ほどのカカシさんのことですけど…ご存じだったんですね」
二人並んでゆっくりと歩き出すと、イルカ先生が答えた。
「ええ。ナルトの班の担当、というのもあって、ちょっと気になりましてね。三代目に班が決まる前に、どんな方か聞いてみたことがあるんですよ。…かなり厳しい方だと知って心配してましたけど、アイツも頑張ってるみたいで安心しました」
「ふふ、張り切ってましたね」
私は先ほどのナルト君を思い出してふっと笑った。
「そういえば、サスケ君も同じ班なんですね」
振り返りそう言うと、イルカ先生が困ったような顔をする。
「いやぁ…成績のバランスを考慮すると、そうするしかなかったんですよ。いつもナルトの奴が突っかかるから、あんまり相性は良くなさそうとは思いつつも仕方なく。下忍となれば、もう一人前ですからねぇ」
はぁと溜息を一つ吐き、イルカ先生は目を軽く閉じた。
「そうですね。でも、女の子が入るとまたガラリと変わると思いますよ。春野さんも頑張り屋ですから、大丈夫でしょう」
「ええ。まぁ、何とかやってくれると信じるしか」
「はい」
私はまた空を仰いだ。ピィと鳥が声を上げて飛んでいく。忍鳥だったのか、その声と共に忍装束の人が屋根伝いに走っていくのが見えた。
(何となく…)
私はカカシさんの佇まいに引っ掛かりを感じていた。
確かに上忍と呼ばれる人たちは、独特な雰囲気を醸し出している人が多い。しかし、今までに二、三人顔を合わせた上忍たちと、彼は違っていた。
私は先ほどのやり取りで、得体のしれない底知れなさを感じた。それを、イルカ先生に話してみようかと思ったのに、何となく言いそびれてしまった。
何故かというと、隣を歩くイルカ先生は、夕暮れの空を眺めて、満足そうに頬を緩めていたからだった。
彼は、ナルト君を見送ったときと同じ目をして夕日を見ていた。その優しい横顔を見たら、彼の心配事の種をこれ以上増やしたくないと思ったのだ。