第12章 その人は
ナルト君が口を尖らせて、更に何か言おうとしたときだった。背後で低い声が聞こえた。
「俺が、何だって?」
振り返ると、特徴的な銀髪をした男性がいた。
額宛てを斜めに着け、片方の目元を隠している。木ノ葉の忍のベストを着ているから、もしかして上忍の先生だろうか。
彼はズボンのポケットに両手を入れたまま、長身を折り曲げて、ナルト君のすぐ後ろに顔を寄せた。
「ヒッ!カ、カカシ先生ぇ!?」
ナルト君が小さく飛び上がった。
「あんまり文句言うと、お前だけ、また昼飯抜きにするぞ」
「そんなぁ!」
彼は凄みを効かせて低い声で脅した後、すぐに声色を変えた。
「ま、それはいいとして。ナルト、任務が入ったぞ」
「え?やったぁ!」
任務と聞いて、ナルト君はすぐに目を輝かせた。食べ終わった丼に、手に持った箸を置く。椅子から飛び降りて、彼を促した。
「準備OKだってばよ、カカシ先生!腹ごしらえもバッチシ!」
「それは良かった、…て。そもそもお前、任務が入る可能性があるから、自宅待機って言っておいたはずだけど」
「えーっと、それは…」
ナルト君は目を泳がせている。
「ま、いいけどね。サスケもサクラももう、任務受付に行ってる。すぐ行くぞ」
「よっしゃあ」
勢いよく右拳を上げて、ナルト君が言った。その様子を、私はカウンターから振り返り見ていた。
イルカ先生が椅子から立ち上がり、彼に挨拶をする。
「カカシさん、すみませんね。俺がナルトを誘ったんですよ。待機とは露知らず…ご迷惑をかけて」
「いや、そんな謝ってもらうようなことではありません。大方こいつが出歩いていたんでしょーよ。ナルト。お前、ラーメンに釣られて言わなかったんじゃないの?」
彼はナルト君の性格を見抜いているらしい。ぎくりとナルト君は体を強張らせた。誤魔化すように視線を逸らしている。