第10章 靄がかかった真実
私、木ノ一さくらんぼは、
ボーダー直属のエンジニア夫婦の娘として生を受けた
お母さんは温厚で優しく、私の成長を一番大切にしてくれていた。時には厳しくもあったけど、私が不安になった時にいの一番に駆けつけてくれる大事な母親。エンジニアの補佐としても立派に仕事をしていたのも知っている
お父さんはエンジニアの仕事でお母さんよりも顔を合わせる頻度は少なかったけれど、それでも私のことを愛してくれた。私が勝手に研究所に遊びに来てもお父さんは怒ることなんてなかった
けど、あの時からこの家庭は崩壊してしまった
それは、私がまだ小さかった頃、寝ぼけていた私はおもむろに父と母の姿を探した。
『寝る時は一緒に居るって約束したのに…』
少しの不満と強烈な眠気の中、私はある部屋から光が漏れ出しているのを見つけた
青白く光る液体が瓶の中で揺れていた。それはまるで暗闇の中のチョウチンアンコウのように私を呼んでいた気がする。
何の躊躇いもなくそれを飲み干した
「さくらんぼ!」
誰かが私の名前を呼んだが時すでに遅し。空の瓶が足元を転がっていた
私はその後一週間、謎の副反応と戦い続けた。どうやらあの液体もトリガーの一種だったようで、お父さんが質量変化させることができないかと実験していたサンプルだった。
毎日何らかの症状に襲われる日々、眠れない夜を延々と過ごし、それが収まったころには既に右の腕は蒼白く、右目はくすんだ黄色に変色してしまった
調査の結果、私は黒トリガーの適合者になってしまい幼い私ではまだ使いこなすことはできないとの事。しかも厄介なことにそれは私の体内をめぐっていて取り出すことは困難であること
お父さんは私の”無垢な力”を恐れた
「お父さん!!どうしてよ!!」
厚く、冷たい扉を何度小さな拳で叩こうが父親の返事はなかった
「あれを飲んだことがいけなかったの!?ごめんなさい、ごめんなさい、いい子じゃなくてごめんなさい!!」
「ねえ、どうして無視するの!?なんで誰も返事してくれないの!?
お父さん!お母さん!
早くここから出してよぉっ!!寂しくてもう死んじゃうよぅ!!」
感情に身体が蝕まれる何てこと馬鹿なことはないと思っていたが、あの時は本当に、絶望よりも”孤独”に殺されそうになった