第5章 しみずくん
「好きだからそうやって嫉妬するんだよ。ははっ。報われないなあ、僕も」
「え?」
「雅哉くんから、早織さんを奪いたいんだよ」
私の目を真っ直ぐ見つめて言う。今まで見た事ない顔をして。奪いたい?なにそれ。まったく意味がわかんない。
「奪って、僕のものにしちゃいたい」
頬に手が添えられる。手のひらは暖かくなくて、頬から冷えていく感覚。全身が凍って動けなくなる。
清水くんの目に捕らわれて、吸い込まれてく。まるで呪いにかかってしまったみたい。
その時、お風呂場からお湯が沸いたことを知らせる音がリビングに響いた。
「お、おふろ。沸いたみたい」
その場の雰囲気を変えたくて、誤魔化す。
「そうだね。先はいっておいで」
「うん。ありがとう」
パッ頬からと手が離れた。この空間に居たくなくて、逃げ込むようにして浴室へと向かう。
「なに、いまの…………」
少しだけ、怖かった。清水くんの黒い部分が見えてしまって。今日はそんなことばかりで、関わったら危ない人何じゃないかって思い始めてる自分がいた。
***
「あーあ。どうしよっかなあ」
こんなチャンス二度とない。あの早織ちゃんか僕の家に来るなんて。優等生を演じて信頼を築けて良かったと心底思う。
僕は君が想像するような人間じゃない。襲いたいとか、はたまたそのまま監禁したいだとか。野蛮なことを考えてるただの男なんだよ。
理性を保つのに必死だった。今すぐにでも押し倒して、めちゃくちゃに抱き潰してやりたい。そんな衝動を抑えてた。
女神のように優しく笑いかける早織ちゃん。それを見て心臓が熱くなって、目が離せなくなったんだ。僕は早織ちゃんに恋をしてしまった。
そんな中、邪魔な存在がいた。永宮雅哉がとにかく憎かった。同じ家で暮らして、一日中独り占めできる。どうせ手懐けてるんだろって腹が立った。
だから今日がすごく嬉しかったんだ。案の定、永宮雅哉のことが好き。でも今この瞬間に弱さに漬け込んで、少しでも気持ちが傾けばいいと思った。