第5章 ※逆鱗
杏「……………………………………。」
杏寿郎は口を離すと、暫く肩を上下させながら荒い息を整えた。
そして、眉を顰めながらつむぎをきつく抱き締めた。
朦朧としていたつむぎはぼんやりと杏寿郎の肩口を見つめ、そしてサッと青ざめながら目を見開いた。
「杏寿郎くん、傷が開いてっ」
杏「どうして別れてだなんて言ったんだ。」
「………………。」
杏寿郎の小さな声につむぎは酷い後悔を覚えた。
そして謝るように杏寿郎を優しく抱き締め返した。
「…あれは…………私が杏寿郎くんに相応しくないと思って言っただけなの。杏寿郎くんは何も悪くない。私が…私がちゃんとできないから自己嫌悪になって」
杏「だから、それで何故別れようとなるんだ。」
「え……、」
つむぎが返答に困って固まると、杏寿郎は体を離してしっかりとつむぎを見つめた。
杏「俺の気持ちはどうなる。君が俺に相応しいか相応しくないかなど、心底どうでもいい。俺は君が好きなんだ。君が、いいんだ。」
ハッキリとそう言葉にされると、つむぎは蜜璃に勝手に劣等感を抱き、随分と自己中心的な行動を取ってしまっていたのだと気が付いた。