第5章 ※逆鱗
「…はっ、……はっ」
走って帰っていたつむぎは五十嵐家に着くと何も言わずに玄関へ上がった。
まだ朝は始まったばかり。
かざみも鬼殺隊士を目指す弟子達も寝ていた。
静かな屋敷内を歩き、真っ直ぐに風呂へと向かう。
(……気持ち悪い…。)
つむぎは風呂場へ入るとぬるい湯に手拭いを浸けた。
それを絞り、左肩を拭う。
何度も何度も拭ったが、先程の感触は一向に消えない。
容易に抑え込まれた悔しさも蘇ってきてしまった。
(なんで……ついて行っちゃったんだろう……。)
杏寿郎は何度も心配してくれていた。
つむぎがどんなにうんざりとした顔をしても、根気強く、何度も、何度も。
その想いをつむぎは踏みにじってしまったのだ。
(………どうしよう……とりあえずは忙しいってことにして…しばらくは会わずに……、)
つむぎはそうずるい事を考えながら体を清めていった。
しかし、部屋に入ろうとしたその時、しのぶの鴉・艶が逃げ道を奪う手紙を運んで来た。
『怪しまれずに会話を終えるには回避できなかった、任務を終えたらまた来てほしい』と記されていたのだ。
(……嫌われたくない……隠し、通せるかな……。)
「ごめん……杏寿郎くん…。ごめんなさい…。ごめんなさい……。」
つむぎは敷いた布団に潜り込むと、どうしたら良いのか分からず涙を流し続けたのだった。