第5章 ※逆鱗
し「……鬼殺隊が戦う相手は鬼の筈です。仲間同士でこんな事をして良いと思っているんですか。これは立派な暴力、隊律違反です。」
しのぶはツカツカと歩み寄ると、固まっている男の手をパシンッと払った。
すると口と鼻を解放されたつむぎが、男の下から這い出て荒い息を繰り返す。
「む、蟲柱、さま…っ」
つむぎは礼を言おうとしたが、一気に空気を吸い込みすぎたせいで酷く咳き込んでしまった。
その隣では男が青ざめて俯いている。
し「この事は私がお館様に報告致します。処罰は追って下されるでしょう。あなたを治療する気はありません。どうぞ出て行って下さい。」
男「こ、胡蝶さん…、」
し「お早く願います。」
しのぶの取り付く島もない様子に男は項垂れながら出て行った。
それを見送ると、しのぶは眉を寄せながらつむぎのシャツのボタンを掛けていった。
「じ、自分でできます!お手を煩わせるなど」
し「五十嵐さんの事はずっと気になっていました。私も体格に恵まれなかったので。」
つむぎと同じく華奢なしのぶは、鬼の首を斬る代わりに鬼を殺す毒を作り出した。
戦い方は違えども、同じような悩みを持っているであろうつむぎに思うところがあったのだ。
「蟲柱様が…私を覚えてらしたのですか…?」
しのぶは隊服のボタンも掛け終わると少し微笑んだ。
し「そんなに堅苦しい呼び名で呼ばないで下さい。あなたとはもう少し違う関係でいたいんです。」
そうしてつむぎは思わぬところでしのぶと交流を持ったのだった。