【降谷零】SPARK × PUNK【名探偵コナン】
第5章 「元整備士」×「ポルシェ356A」
「ふ…ふる……」
ドアノブが勝手に手から離れていく。
その扉の先、外の冷たい空気と一緒にふわりと香るその匂いはやけに私の記憶にこびりついていた。
いつものスーツではなく、私服姿の降谷くん。路上には愛車であるRX-7白いサイドミラーとバンパーが覗いている。
呆然と立ち尽くす降谷くん。………否、今の彼は――――。
「安室さ…ん………」
どうしよう、合わせる顔がない。
言い訳なんか、とっくに頭から飛んでって真っ白になってしまった。
「ご、ごめんなさ………」
ちゃんと言わなきゃいけないと分かっていても、酷く小さな声しか出せなかった。
「怪我は……?」
唐突に降谷くんがそう呟いた。
問い詰めるような圧はなく、今まで聞いたことないくらい柔らかい声と表情に私は困惑した。
「今は、もう………安静にって………」
自分でも分かりやすく目が泳ぐのが分かった。会話がぎこちなく気まずい。
後ろから「安室さん…」とコナンくんの呟く声が聞こえる。
すると瞬きをした間に、突然降谷くんが手を伸ばし私を抱きしめた。困惑だった目が自然と見開き、突然のことに片足が一歩下がるがその手つきは酷く優しくて、まるで高価なガラス細工を扱っている様だった。
強く抱きしめられているわけではないのに、少しだけ、自分の体温より冷たいのが分かった。
嗚呼、本当に私は何をやってるんだ。
彼に、また同じ思いを私がさせてしまってる。あんなにあがいて、睡眠時間を削ってまでこの国の為に尽くしているというのに。そんなんじゃ降谷くんが報われないじゃないか。
復讐に走らず、引きずらず、忠実に、誠実にいるのは少しでも誰かの大切な人がいなくならない為なのに。
私は自分の命より、……優先してしまった。
命を落としてまで、守るべきモノはこの世に存在しない。でも、そんなことは分かってるんだ。
でも、もし降谷くんに本当のことをうち明けたら彼はなんて言うだろう。
絶体絶命に追い込まれた時、自分が生きて沢山の人を犠牲にするか自分一人が死んで沢山の人を救うか選べと言われたら、降谷くんは私と同じ行動を取るだろうか。