第30章 お茶会
「よ、よかったぁ…」
そう言いながら、私はその場にしゃがみ込む。
張ってた気が一気に抜けてしまった。
「すみません、そんなに心配されると思ってなくて…」
「心配するに決まってるでしょ!バカ!!」
青柳に向かって叫んだ。
なんか、前にもこんなことあったっけ。
確かベルツリー急行の時だ。立場は逆だけど。
「知ってるでしょ?私の同期、居眠り運転の車に跳ねられて死んでるの。
だから、あんたが交通事故に巻き込まれたって聞いて気が気じゃなかったんだから」
私に目線を合わせるためにしゃがむ青柳。
「ほんとにすみません」
そう言いながら私の背中を摩った。
「…でも、何とも無くてよかった」
本当によかった。
私の悪い想像が現実にならなくて。
そう噛み締めながら青柳の頭をポンポンと撫でると、照れくさそうに頬を赤らめた。
「ほ、ほら早く行きましょ!
どうせ、仕事ほっぽってきたんでしょうから」
「あ、そうだ。丸投げしてきちゃった。
大丈夫かな?」
「だといいんすけど」
部下達がパニックになってない事を祈るしかないな。
そうして私たちは立ち上がる。
「今日は私が運転するから!」
「い、いや!さすがにそれは…」
「いいのよ!仮にも怪我人でしょ?
大人しく上司のう言うことをき……」
話の途中で止まった。
私の視線が捉えたもの、つい昨日遭遇した人物。
風邪を引いたなんて1度も聞いたことがないのに、夏風邪を理由に喫茶店のバイトを数日間休むような男。
遠くからでも分かるほど、その金髪は目立っていた。
「…さん?」
「えっ!?」
「どうしました?急に止まって」
「あ、いや、別に…」
正直、今は会いたくない。
もちろん昨日の花見の件、特にあの女性について問いただしたい気持ちは山々だ。
だが、ゼロは私があの変装を見破ったことに気付いていないはず。
まして『組織』の存在について悟っていると分かれば、これ以上探らせないためにまた私の前から姿を消すかもしれない。
……それは絶対に避けたい。
それに、今は青柳もいる。
こいつに何かを察されるのもちょっと面倒なんだよな。
よし、ここは気付かなかった振りをして無視を決め込むのが無難だ。