第9章 牽制
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女「あれ、りんちゃん今日すっぴんメイクだね。」
「先輩、おはようございます。」
ベースメイクしか出来なかったりんはそう挨拶をすると余所行きの笑顔を浮かべた。
りんの営業部の先輩はそんなりんに悪戯めいた瞳を向ける。
女「新しい彼氏の家から出勤したんでしょ。どんな人なの?今度こそきちんと話してよー。」
いつもなら大抵の事を笑ってごまかせたりんであったが、今はそんなありふれた絡みにも赤面した。
女「………………え……?」
「す、すみません!失礼します!!」
りんはそう言って頭を下げると眉尻を下げながら退散した。
そんなりんを先輩は口を開けて見送る。
女「あれ……そういえば…りんちゃんって本当に男慣れした子だったっけ……。」
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(恥ずかしい…恥ずかしい…!絶対変に思われた…!!)
初めてごまかせなかったりんはプチパニックに陥りながらトイレへ駆け込んだ。
そして急いで戸を閉め顔を両手で覆い、冷静さを取り戻すように深い呼吸を繰り返す。