第5章 華
せっかく近くにいるのだから抱きしめたい気持ちもあったが、触れたら最後だという予感もあった。
一方、てっきりぎゅうぎゅう抱きしめてくるだろうと思っていたりんは、少し不安そうな顔をしていた。
(何があったんだろう…。怒ってる…のとは少し違うけど、何となく雰囲気がおかしい…。ピリピリしているというか…。)
「きょ、杏寿郎さん………?」
おそるおそる名を呼び、杏寿郎のTシャツの裾を摘んでくんっと引っ張ってみる。
すると杏寿郎は真顔でゆっくりと振り返った。
大きな赤い瞳は暗闇の中で鋭く光って見える。
「…っ」
りんは慌ててTシャツから手を離したが、その手を今度は杏寿郎が捕まえた。
「あの、」
そうしてりんが戸惑っている間に杏寿郎はりんの両手首を押さえ込み、りんに覆い被さってしまった。