第25章 耳掃除をしよう(安土勢)
秀吉さんに促され、戸惑いながら信長様の御前に進み出た。
耳かきを凝視する緋色の瞳がやけに鋭い。
(やっぱり信長様の様子が変だ)
「信長様?お嫌でしたら…」
秀吉「何を言ってるんだ。嫌なわけがないだろう。さあ、信長様も寝転んでください」
家康「一度くらいは経験しといても良いと思いますよ」
三成「ええ。耳から全身に快感が走るようですよ」
秀吉さんや他の皆も信長様の異変に気付いていないようで、頻りに勧めている。
私だけが信長様の微細な表情から感じとっているようだ。
「信長様、では……どうぞ?」
信長「む…」
膝の上に信長様が頭を乗せたけど、その動きにいつものキレがないことに気付く。
コンマ何秒か動作が遅い。
囲碁で私が負けた時は、もっと勢いよく頭を預けてくるから違いがよくわかった。
(どうしたんだろう。先端恐怖症とか…?
いやそれなら刀とか持っていられないよね)
秀吉さんが手ぬぐいを差し出してくれて、それを信長様の顔に掛けた。
「失礼しますね」
耳かきを差し込む前段階、つまり耳にそっと触れただけで信長様の身体が動いて耳たぶがみるみる赤く染まっていく。
顕著な変化に、もしやと予想をつける。
(気のせいかな、確かめてみよう…)
「あ!すみません!」
信長「!」
フワフワの梵天が耳にあたるようにワザと耳かきを落とすと、信長様が身を硬くした。
ちょっとだけ手ぬぐいの下を覗くと意外な姿が見えた。
(うそ!信長様が目をギュッ!って、してるっ!!!!!!)
秀吉「ん?どうした舞」
「なんでもないよ」
受け答えしながらどうしようかと頭を巡らせた。
(きっと信長様は耳が弱くて、本当は耳かきなんてして欲しくないのに皆の手前断り切れなかったんだ)
自分の弱点を晒すなんて信長様にとって、かなり屈辱的だろう。
手ぬぐいの下で密かに追い詰められている信長様を、なんとか助けてあげなくては。
「ん~………」
身をかがめ、角度を変えながら耳の中を見るフリをした。
私の髪が背中から肩を滑り、前に落ちてくる。
手ぬぐい越しに信長様の顔に髪の毛が当たってしまい、信長様はますます身体を強張らせた。
いつ私の髪が耳に当たるかと恐れているのだろう。
(信長様に弱点があったなんて…ふふ)