第15章 secret word(政宗)
光秀「それは悪いことをした。今のうちに謝っておこう」
「なんのことですか?」
政宗は秀吉さんからお茶を注いでもらっている。
三成君に『ちゃんと食ってるか?』と声をかけてから、お茶が入った湯呑に口をつけた。
(嫌な予感がする!)
「待って、政宗っ。それ飲んじゃダメっ」
盛り上がっている宴の中で私の声はたちまちかき消されてしまって、政宗には届かなかった。
大げさに着飾られてすぐには動けず、そうしている間に政宗はお茶を飲んでしまった。
「あ、だめ…!」
政宗は湯呑を置いて数秒すると、大きな身体をふらつかせて倒れ込んでしまった。
向かいに座っていた秀吉さんが驚いた顔をしている。
秀吉「おい、政宗?どうした?」
三成「眠っておいでのようですね…」
秀吉「酒を飲んでいないのにか?」
三成君が政宗の湯呑に顔を近づけているところに駆けつけた。
「政宗…寝ちゃったの?」
起き上がらせようとしても重たくてびくともしない。
魅惑的な蒼い瞳は硬く閉じられて開く気配がない。
三成「この湯呑からわずかですがお酒の匂いがします」
秀吉「悪い。さっき俺が注いだ茶だ」
秀吉さんは謝りながら真剣な面持ちで急須の中身を確認している。
その様子に嘘はない。
私も秀吉さんのせいだなんて思っていない。
きっとこうなるだろうと予想した誰かが前もってお酒を仕込んでいたに違いない。
誰かがだなんて、こんないやらしい悪戯をする人は一人しか居ないけど。
「秀吉さんが謝る必要ないよ」
じろっと見つめる先は、どんなにお酒を飲んでも顔色ひとつかえない光秀さん。
涼し気に盃を傾けていた光秀さんは私と目が合うと小さく笑った。