第5章 姫がいなくなった(元就さん)
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『舵助に会ってもいいですか?』
重たい空気を振り払うように、全然違う話を向けられて二人で外に出た。
「舵助……元気にしてた?」
舞は、ふふ、と小さく笑い、舵助の頭や背中を撫でている。
元就の脛を蹴ったくせに、舞には甘えるように抱きついている。
元就は内心で『気にくわねぇ…』と呆れている。
束の間触れ合い、舞は舵助から離れた。
「海に………放り込まないんですか?」
ゴオと海風が強く吹く中、さして大きくもない舞の呟きはハッキリと元就の耳に届いた。
静かな決意を秘めた問いかけだった。和やかな雰囲気は一変し、部屋の中に居た時と同様、空気がピンと張りつめた。
「ここから押せば……海に落とせます」
元就「落として欲しいなら落としてやる」
元就が舞に歩み寄った。男の力で押せば、舞はよろめき、柵を乗り越え海に落ちるだろう。
「私の話をどう思ったんですか?」
元就「信じられるわけないだろうが」
「っ、なら、どうして今すぐ海に落とさないんですか?拳銃も持っていますよね?」
舞の声は涙声だ。
元就「お前の中に居るのは誰だ?」
「……え?」
質問の意味がわからず舞は小首を傾げた。
元就「生まれ育った世界を捨て、つくりものの世界に居たいと思う程の男のことだ」
「あ……それは………」
銀色の月明りを浴びていても、舞の頬が赤くなったのがわかった。
元就のこめかみがピクリと動く。
元就「この際お前の話が本当かどうかなんて関係ない。
誰を慕っているかの方が重要だ」
「………なんでですか?私の片思いなんて全然重要じゃないような……」
元就「俺にとっては重要だって言ってんだよっ!早く言えっ!」
元就がしびれを切らして懐から拳銃を取り出した。撃鉄をおろす音がいやに響いた。