第34章 呪いの器(三成君)
顕如「この厄介品の供養には時がかかる。定まった寺を持たない私には難しい話だ。
他をあたりなさい、蘭丸」
ところがいくら断っても蘭丸は諦めず、仕方なく顕如は妥協案を出すことにした。
顕如「この間の寺に供養塔を建て、経をあげるところまではしてやろう。
その後はあそこの住職に任せる。
蘭丸、お前がそこまで舞姫のために必死ならば、毎日寺を訪れて手を合わせると良い」
蘭丸「ありがとうございます、顕如様!
俺、毎日通いますっ!三成様にも教えて、皆で心をこめて供養します」
顕如「三成?あの女子(おなご)は石田三成と関係があるのか」
蘭丸「ええ、彼女は三成様の恋仲です」
顕如「……あぁ、なるほどな。
あの女子の憂いはそれだったか」
石田三成の色恋沙汰が噂された時期が丁度あの頃だったと、顕如はあの日の舞の絶望の意味を知った。
顕如「よりは戻ったのか」
蘭丸はもちろんですと瞬時に頷いた。
蘭丸「戻るも何も、あの噂が間違っていたんです。
二人の間に割って入れる人なんて居ませんよ」
誰もが見惚れる笑顔の影に、顕如は密かな感情を見いだした。
顕如「そうか…。お前も不毛なことをしているな」
蘭丸「えっ!何のことですか?」
とぼけているが透き通った肌というのは赤みを隠すには不都合だ。
幼子の頃から世話をしていた蘭丸に成長を見て、顕如は人らしい穏やかな笑みを浮かべた。
顕如「明日の早朝、あそこの寺に行って簪を供養しよう」
蘭丸「は、はい。顕如様。お供します」
こうして安土のはずれにある寺に供養塔が建てられ、三成をはじめ安土の武将達が幾日も幾日も供養に訪れ、成仏を願う花や供え物が途切れなかった。
そして椿の夫である大名や2人の娘達もまた、遠路はるばる訪れて長いこと手を合わせたのだった。