第34章 呪いの器(三成君)
————
蘭丸から事の顛末を聞いた僧が深く息を吐いた。
僧の前には封がされた木箱が置かれており、中身は言わずと知れた呪いの簪だ。
蘭丸「顕如様、お願いします。これを早く供養してください。
三成様が言うには殺された動物達が成仏しなければ舞様は死んでしまうそうなんです」
顕如「姫が死んだら安土の連中の士気が下がる。
私にとっては都合のいい話しだ」
一日の務めが終わった顕如は袈裟を脱いでいる。
しかし織田に仕掛ける策を練っていたのか、文机の上には届いた文と返信の文で溢れている。
蘭丸「っ…!この間舞様のお守りを祈祷してあげたじゃないですか。
どうして今度はダメなんですか?」
昔馴染みを頼って訪れた寺で話しの途中で相手が席を外し、そこに丁度良く現れたのが舞だったのだ。
舞の護衛だった蘭丸は思わぬ顕如との対面に面喰い、初対面のふりをして『こちらは織田所縁の舞姫です』と紹介した。
人質にとるかは顕如に任せた形だったが、顕如は舞のお守りを祈祷したあとは帰るよう促したのだ。
顕如「あの時は期が熟していなかった。無計画にあの娘を攫ったところで面倒ごとが増えると思って泳がせただけだ。
それにあの娘にはわずかばかりの恩があったのでな。恩と仇というのは、もらったからには必ず返さなくてはいけない」
雷雨の中、今にも死にそうな様相で歩いていた女は顕如が落とした手ぬぐいを拾った。
若い身空(みそら)で何を絶望していたのか、手ぬぐいを拾ってよこした時の焦燥の顔がずっと心に残っていた。
顕如と舞の刹那の接点を知らない蘭丸は、意外そうに首を傾げた。
蘭丸「恩……ですか?」
顕如「ああ。しかしその恩は返した。
こんな厄介品を供養している暇はない。信長ならば金を詰んでどこぞの高僧を連れてくるだろう」
蘭丸「俺は顕如様より立派な僧を知りません。
もし見掛け倒しの僧侶が来たらと思うと不安で、どうかお願いします!」
蘭丸は今日何度目になるのか頭を下げた。