第2章 愁パート 完
「……バンド内で付き合うのがあんまり良くないのは…知ってるんだけどね」
自嘲するように笑うヒロイン。その時俺は自分がヒロイン自身に恋をしていたのだと初めて知った。
「ただ、あの人のことを思い浮かべながら曲を考えていると……なんだか凄くいいのが浮かぶんだ」
人気が出るにつれてボーカルに黒い噂がついて回り始めていることを言うことはできなかった。
まだ少女と言ってもいい美しい笑顔を壊すことなんてできなかった。
それから少しして、ヒロインのバンドにベーシストが加入する。
男にやけにベタベタしているようなそいつは、ヒロインには嫌に鋭い視線を向けていた。
「はぁ、愁って本当に格好いいよねえ」
許してもいないのに勝手に呼び捨てにして、甘ったるい声で喋るその女が苦手だった。
「おい愁、次の出番もうすぐだぞ」
「ーああ、今行く」
助け舟を出すようにロムに声をかけられ、俺はその場を後にする。
遠くで見えるヒロインがギターを愛し気に撫でるのに視線がとられた。
ベーシストがボーカルの男にパタパタと駆け寄っていくのが視線に入り込む。
ふとヒロインと目が合うと、苦笑いを返された。