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【SB69】レディ・レディ[オムニバス]

第2章 愁パート 完


音楽を始める前、まだ俺が高校生の時だ。
あいつはまだ中坊で、その割に何か人生を達観しているような奴だった。
ある日適当に弦を買うために入った寂れた楽器店。
そこで見たギターテクは異様だった。
天才、というものをそこで初めて知った。
「ああ、いらっしゃいませ。うるさくてごめんなさい、今調整中なので」
笑顔はないが、きちんと客の目を見て話す子だなと思った。
「ーーー上手いな」
弦をカウンターに置き細く長い指を見る。
「…ありがとうございます」
ギターを丁寧にスタンドにかけ、俺の持ってきた弦をレジに打ち込んでいる様子に、もしかしたら自分より年下なのではと気がついた。















それから何度か店に足を運ぶようになった。
いつの間にか常連と呼ばれるようになった頃、ギターのメンテナンスを頼んだ。
「オーバーホールね。うちは込み込みだから他より少し高くなるけど大丈夫?」
「ここならアコギなこともやんねーだろ」
V系が流行りだしたMIDICITY、ゴリゴリにカスタマイズしたギターを渡すと、ヒロインは了解と一言告げた。
「アンタに任せたい」
「いいけど、私来週学祭でライブあるから遅くなるよ?」
そこでヒロインがバンドを組んでいることを知った。
光る原石、才能の塊というものはこいつを指すのだろう。学祭で見た演奏は他の演者を霞ませる程素晴らしいものだった。
同時に、俺に劣等感を与える。
俺よりも若くて溢れる才能。
まだ若い中坊の少女達の目には、ボーカルしか映っていないがわかる奴にはわかるのだろう、ヒロインには羨望の眼差しが送られていた。
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