第19章 昔の記憶
「……煉獄様の髪の毛がお月様の光を閉じ込めて光っています。」
握り飯を食べようとして口を開けていた杏寿郎は目を丸くした後にこっと笑った。
杏「君は風流な事を言うな!」
「そうでしょうか。」
菫は自身の足に捕まってぐずる妹の頭を撫でながら、杏寿郎が食べる度に揺れる綺麗な髪を見つめた。
すると食べ終わった杏寿郎が微笑みながらも少しだけ眉尻を下げた。
杏「少しこそばゆいな!」
そう言って自身の髪を撫でる。
綺麗だが梳いてはいないのだろう。
菫はそれを勿体なく思った。
「髪の毛を梳かせて貰えませんか?痛くしませんので。」
そう言って懐から櫛を取り出す。
杏寿郎は目を丸くして一瞬固まった。
杏「……いや、大丈夫だ!!」
「では此方の岩に座って下さいませ。」
杏寿郎の "大丈夫" とは、 "梳かなくて大丈夫" だという意味であったが、菫は許可されたのだと勘違いをした。
すると断りづらくなってしまった杏寿郎は『減るものでもないし』と切り替え、菫が指し示した岩に胡座をかいて座った。
「失礼致します。」
そうして菫が髪を梳いていると、誰にも見られていない杏寿郎の表情は静かなものになる。