第63章 受け継がれる命
「最後に、槇寿郎さん。」
視線を遣った先で、槇寿郎は緊張した面持ちになっていた。
無理もない。
槇寿郎は彼女に褒められるような事を出来ていない。
菫は俯いてしまった槇寿郎を見ると微笑みながら口を開いた。
「……『もう、分かっていらっしゃる事を掘り返すつもりはありません。ただ…、私を深く愛して下さってありがとうございました。』」
それを聞いた槇寿郎は目を見開くとパタパタと涙を落としてしまった。
それを見た杏寿郎は千寿郎の顔を自身の方へ向けさせる。
杏「母上に褒めて貰えて良かったな!見ていて下さったんだ!」
千「はい!これからも沢山拝みます!」
杏寿郎はにこにこと微笑みながら千寿郎の頭を撫でると、今度は菫に静かな笑みを向けた。
杏「母上に感謝しなければならないな。きっと菫を俺の元へ帰してくれたのだろう。菫…。菫も伝えてくれて…戻って来てくれてありがとう。疲れたろう。もう休んでくれ。」
「はい。ですがその前に我が子を抱かせて頂けませんか。」
そう言われてハッとする。
菫が見遣る後ろを振り返れば、子供を抱いた産婆が様子を見守っていた。
杏「すまない!早くも父親失格だ!!」
杏寿郎は千寿郎に産婆の見送りを任せると、赤ん坊を抱きながら菫の脇に膝をついた。
杏「体付きががっしりとしている。大きくなるかも知れないな。」
菫は赤ん坊を受け取りながら早くも整っていると分かる顔を覗き込む。
「きっと杏寿郎さんに似た美丈夫になるわ。」
父親の前でそう言われると杏寿郎はきゅっと口角を上げて固まったが、槇寿郎が未だ肩を震わせて泣いているのに気が付くと菫に向き直って微笑んだ。
杏「俺に似たのならまず大食らいに育つだろう!剣術道場を繁盛させねばならないな!」
その言葉に菫は眉尻を下げて微笑んだのだった。