第62章 ※遠い初めての夜
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菫は宴会の後片付けを終えると新しく充てがわれた部屋に多くない荷物を仕舞い、早速料理を振る舞い、洗濯物を干し、千寿郎に案内してもらいながら共に掃除をした。
そうして過ごしている間、ずっと気に掛かっていた事があった。
それはこれから訪れる夜、つまり初夜についてだ。
(あの杏寿郎さんが知っているとは思えないわ。かと言って私もあまり詳しくは…。日を重ねて徐々に進めればなんとかなるかしら…。)
そんな菫の考えは杞憂であった。
杏寿郎は自身の知識不足を自覚していた為、少しずつ天元に教えを請うていたのだ。
杏(菫の夜の姿など想像も出来ない。満足させられるよう、全力を尽くすつもりだが…、)
一方、杏寿郎の方もそうして珍しく一日同じ事を考えていた。
そうこうしている間に時間は過ぎ、槇寿郎の『励めよ。』という生々しい言葉に見送られて二人は二組の布団がぴったりとくっついて敷かれている夫婦の寝室に入ったのだった。
杏「………………。」
「………………。」
菫は独特な空気に耐えられなくて早々に布団へ潜り込んだ。
すると、隣の布団でも同じ音がする。
今まで近い距離で寝た事は何回もあったが、それでも完全に寝具をくっつけた事はない。
杏「菫。」
菫は杏寿郎の声が落ち着いている事に動揺した。
「…………はい。」