第61章 祝いの日
杏「話が一段落したら約束通り炊事場へ行こう!」
「はい。…覚えていて下さったんですね。」
杏寿郎は嬉しそうな菫の笑顔を愛でるように目を細める。
杏「ああ!毎日君が立つ姿を想像していたのでな!」
気が付いたら声が大きくなっていた。
そして、その場の者が杏寿郎と菫を黙って見ている事に漸く気が付いた。
杏寿郎はきゅっと口角を上げると固まる。
自分の家族が物珍しそうな顔で見つめていたからだ。
杏(……今俺はどの様な顔をしていた。)
(……私の表情は珍しくなくなったんじゃなかったの…?)
一方、菫の方も自分の家族の驚いたような視線に戸惑っていた。
それでも皆は二人に何も教えなかった。
二人だからこそ浮かべる表情など、その当人達が見せ合えているのならそれ以外に何も要らないと思ったのだ。
そうして顔合わせも恙無く終える事が出来、そして祝言の日が決まった。
当人達は気にしていなかったが、体裁の為との事で姉である菫の祝言は妹の蓮華の祝言の一週間前に執り行う事となった。