第59章 それぞれの
杏「君は二週間で準備を終えてくれるのだろう。すぐまた此処で会える。此処で過ごせなくなっても俺がずっと側に居る。それは変わらない。」
菫はその言葉を聞くとしっかりと頷き、杏寿郎の背に手を回した。
「ありがとうございます。杏寿郎さんの声でしっかりと言葉にされると安心感が違ってきます。」
体を少し離して見下ろした先の菫は眉尻を下げながらも微笑んでいた。
杏「力になれたのなら良かった。」
杏寿郎はそう言いながら流れた涙を拭ってやった。
そうされて初めて自身が泣いてしまった事に気が付いた菫は目を丸くする。
「ごめんなさい…いつの間にこんな駄々っ子になってしまったのかしら…。」
無防備に涙を溢しながら呆気に取られる様子が何だか堪らなく愛おしくて、杏寿郎は再び菫をしっかりと抱き締めると何度も頭を撫でた。
杏「もうすぐだ。もうすぐ俺達が帰る正当な家に住むことになる。それまで待っていてくれ。」
そう先の光を示されると菫の涙は止まった。