第59章 それぞれの
杏「君とあの屋敷へ行くのも今日を入れてあと二回か。」
「はい。」
そう確認し合うと、杏寿郎と菫は杏寿郎の屋敷までの道程をゆっくりと進んだ。
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「初めてこの門戸を叩いた時、とても緊張していました。」
それを聞くと戸を開く杏寿郎が振り返って楽しそうに笑った。
杏「俺は "清水" があの "菫さん" であったと知った時とても驚いた!!」
すると菫は自身の行動を恥じて困ったように笑った。
「思い返せば信じられない事をしました。何故あのようなとんでもない事をしてしまったのかしら…。敬愛するだけなら遠くからでも良かったのに。」
杏「恋心が眠っていたからだと信じていたのだが違うのか。恋をすると人は盲目になると言うだろう。」
そう言われると菫は頬を染めて目を伏せた。
「…そうかもしれません。」
杏寿郎は小さくなった声を聞くと笑い声を上げ、菫の手を引いて屋敷へと入ったのだった。