第58章 休養―其の弐
しのぶは菫が眉尻を下げるとふるふると首を横に振る。
し「困る事もありましたが、短所と言っている訳ではありません。意志薄弱な人より好感を持てますよ。」
行「ああ、長所と言って良い。」
無「それに意外と優しいし。」
それを聞くと菫は柔らかく笑った。
杏寿郎もそんな菫を見ると嬉しそうに微笑んだのだった。
杏「では世話になった!!」
「しのぶさん、お元気で。また二週間後にお会いしましょう。」
しのぶは一人、また一人と人が減って静かになる屋敷を寂しく思っていたのか、涙を滲ませた笑みを浮かべていた。
し「ええ。楽しみにしています。」
その返事を聞くと菫は体の向きを変えて圭太に向き直った。
退院すると聞いて駆けつけてくれていたのだ。
「圭太さんもどうかお元気で。…幸せになって下さい。」
いつも自分より菫の幸せばかり考えていた圭太は今孤独だった。
圭「ああ。気にするな。煉獄さん、菫をよろしくお願いします。」
圭太にそう頭を下げられると杏寿郎はすぐに顔を上げさせた。
杏「祝言には出席してもらうと言ったろう。その台詞はその時まで取っておいてくれ。」
圭太は薄く口を開いて固まった。
圭「まだそう思ってくれてたんですか…。ありがたいですが祝言は流石に…。祝宴に呼んでもらえればそれで十分なので…。」
「もうそのお話は終わっています。父に『兄が出来た』と話を通しておいたので心配せずいらして下さい。」
そこまで聞くと圭太は可笑しそうに笑った。
圭「ああ…楽しみにしてる。本当に。」
そうして杏寿郎と菫は蝶屋敷を発ったのだった。