第57章 闘いを終えて
杏「…菫、どうした。」
杏寿郎は少し驚いた顔をしていた。
菫はすぐに自身の行いに気が付くとパッと頭を下げる。
「すみません……なんだか、嬉しくて…ぼーっとしてしまっていました。」
そう言うと杏寿郎も嬉しそうに笑った。
杏「俺も同じ気持ちだ。やって来た幸せが大き過ぎて抱え切れない。此方に来て一緒に持ってくれると助かるのだが。」
そんな事を言われると菫は顔を上げてくすりと笑い、側に寄った。
杏「これから生活が大きく変わるな。まずは世の人と同じように夜寝ることになる。寂しいが竈門少年達も屋敷を出ていくだろう。刀と羽織りは飾っておこうか。」
菫はそんな言葉を聞くと微笑みながら要の脚に手紙を括り付けた。
そして大事そうに両手で持ち上げると窓まで連れて行く。
「祝言を上げるまでは何方で生活致しましょう。主従関係でない私達が二人切りで住むのは…許されるのでしょうか。」
そう言うと菫は要を窓枠に立たせ、豆を与えた。
「要さん。私の家族に目出度いお報せを届けて下さいませ。」
要は行儀良く豆を食べ終えると『カァ!』と一鳴きしてから飛び立っていった。
菫が振り返ると杏寿郎は眉を寄せていた。
杏「確かに問題だな。もう俺は炎柱ではなくなる。君も隠ではなくなる。…ただの婚約者だ。」
二人は顔を見合わせると『普通は互いの家へ帰るべきなのだろう』と思った。
(分かっている…けれど、)
杏(流石に寂しく感じるな。)
二人切りでゆっくり暮らす時間はまだ先なのだと少しがっかりもしたが、それ故に二人は蝶屋敷で一緒に居られる時間を大切にしようと決めたのであった。